前回、カルーホイスコーレに通う田村佳世さんのインタビュー記事を書かせてもらいました。
今回は、同じくカルーホイスコーレに在籍している僕の友達、福森綾音さん(あやねちゃん)へインタビューさせてもらった内容をお届けします。
福森さんは、保育士として日本で6年働いたあと、デンマークへ。
2018年8月からカルーホイスコーレでデンマークの語学や文化を学ばれています。
今も保育への強い想いがあり、職業訓練でデンマークの幼稚園へ行ったり、ノーフュンスホイスコーレで行われた教育関係の短期研修プログラム(※)へ参加するなど、積極的に行動されているんです。
※デンマーク国内にある大学や幼稚園、知的障害者の方が通う高校など、教育関係のたくさんの施設を回って、教育全般に対する考えを深める研修。杉山旬さんがアレンジされました。
そんな福森さんから、カルーホイスコーレのこと、そして、保育への考えについてのお話を聞かせてもらいました。
保育に関心がある方も、そうでない方も、いや、そうでない方こそ、是非一度読んでみてください。
目次
デンマークに来た理由
雑貨とかデザインが好きで、行きたいなって思っててん。
「北欧は教育・福祉が良い」っていうのも、興味のベースにあった。
保育という仕事自体はすごい好きやし、誇りを持ってたけど、日本で働いていたときに色々と疑問に思うところがあってん。
例えば、働き方とか。
子育てをしながら働く上の先生の姿を見て、ずっとこの働き方で続けられるのかな?って、ワークライフバランスの面でも疑問に感じちゃって。
「教育・保育にお金をかけられないのってなんだろ?なんか虚しいな。」って思った。
どこの国にしよかなって考えた結果、前から興味のあった北欧にしようと。
北欧でワーホリできる国がノルウェーとデンマークしかないことを知ったんやけど、「ノルウェーは寒そう!」って思って。笑
カルーホイスコーレについて
カルーホイスコーレを選んだ理由
デンマークは物価高いし、家を探すのが難しいって聞いてたから、「学校行けて、衣食住保証されてるし、お金もそんなに高くないし、フォルケホイスコーレええやん!」ってなってん。
最初に見つけたフォルケホイスコーレは、実はカルーじゃなくて、ノーフュンスホイスコーレの社会福祉コースやってん。
内容にすごい惹かれたんやけど、行こうと思ってたコースが定員オーバーで。
次のコースまで1年近くあったからどうしよって思ったんやけど、まずは語学を学ぼうと思って。
何らかの形でデンマークの園に実際に行ってみたいって思ってたから、デンマーク語が必要やなと。
デンマーク人は英語が話せるってどこのサイトにも書いてあったんやけど、子供は喋れへんやろっと思って、デンマーク語が学べるカルーを選んだ。
実際にプラクティックで園に行かせてもらえてるし、フォルケホイスコーレの選び方は間違ってなかったかなと思っている。
カルーホイスコーレの良いところと悪いところ
難民の人と出会う機会なんて日本にいたらなかったし、他にもいろんな国の人と出会えた。
退職後にアウトドアレンジャー(アウトドアコース)に入って、毎朝海で泳ぐような60代のデンマーク人女性にも、日本では出会うことはなかったし。
そういう出会いが大きい。
しんどい作業でもあるけどね。
「保育士っていう冠を取り払った私は何ができるんかな?」「何が好きなんやろ?」って思ったこともあるし。
でも、「写真が好きやな」って思い直してみたりとか、「ギターやってみよ」とか思えた。
ちょっと興味があることを気軽にできる環境やし、できる場を用意してくれるのが、カルーの良いところ。
先生たちのフットワークが軽いっていうか。
それはどこのフォルケホイスコーレでも一緒かもしれへんし、カルーホイスコーレの先生たちが意識してくれてるのかもしれへん。
自転車がボロい。笑
あと交通の便が悪い。
でも、大体のことは、「まあいっか、しょうがない。」って思えるようになったかな。
マイナスがあっても、ポジティブに捉えられるようになったのはデンマークに来てからかもしれない。
自分もそのうちの一人やから人のこと言えへんけど。笑
良かったのは、デンマーク語を習う上で、問題点が似てたりとか、日本のことについて共有できたりとか、日本語で話ができるってところ。
あと、ホームシックにならへんかったし、不安の軽減はすごいあった。
例えば、日本人同士で固まってしまうってのはどうしてもあるし、日本人がいるから、「失敗したら恥ずかしいな」とか、なかったとは言えない。
カルーの生徒全体に対する日本人の割合が高いからね。
でも、みんな違うから面白い。
プラクティック(職業訓練)について
1回目:公立の園でプラクティック
つまり、福祉機関なのね。
対象は0-6歳の子供。
幼稚園は教育機関で、基本的に3-6歳の子供が行く場所。
だから二つは根本的に違うものやねん。
でも今は、両方の機能をもつ「認定こども園」というのも増えてきていたり、幼稚園が保護者のニーズに合わせて預かり時間を延ばしたりしているから、パッと見た感じの違いは少なくなってきてるかも。
この2つは、日本みたいに、福祉機関と教育機関という風には分かれてなくて、親の就労の有無に関わらず、どっちも就学前の子供が行く場所。
年齢によって、「Vuggestue」(0-3歳)と「Børnehaven」(3-6歳)にクラス分けされてるっていうイメージ。
頻度は週1回で、金曜日の8時半〜15時過ぎぐらいまで。
一回、園長先生に、「せっかくやし、日本食作ってくれない?」 って言われて、かよちゃんと一緒に焚き火でカレー作ったことがあった。
先生たちも食べてくれて、そのうちの1人が、「これどうやって作るの?どこで買えるの?」ってすごい気に入ってくれて。
それは単純に嬉しかったな。
先生への質問は英語で聞いたりしてたけど、先生と子供のコミュニケーションはもちろんデンマーク語やし。
デンマーク語わかんね〜ってなって。笑
学校の授業では習わへん、実際に使われてる言葉に触れることができる。
例えば、オムツってなんて言うんやろ、とか。
子供って、「遊ぼ!」とか「食べる!」とか、短い文章で喋るから、「あ、こうやって言うんや」って子供から言葉を学ぶこともあった。
2回目:「森のようちえん」でプラクティック
私立の園。
自然の中で遊ぶこと通して、体の動かし方とか四季の変化に気づくことを体験する幼稚園。
園に建物はあるんやけど、朝から森の中に入っていって、遊ぶのも森の中、お昼ご飯も森の中って感じ。
デンマークでも、公立も私立も保育料はタダじゃないんやんか。
保育は教育ではないから。
デンマークも親の収入の額によって保育料が変わる。
保育について
デンマークと日本の違い
けど、デンマークはやり方が違っても、根底として持ってる考え方は、保育だけじゃなくてその先の教育機関の人たちも全部同じことを思ってるなって感じた。
日本は、やり方だけじゃなくて、子供にこうなって欲しいって願ってる根底の考え方の部分までもバラバラな気がする。
けど、それが現場に下ろせない。
上の人と意見が合わへんとか、事務作業が多すぎて大切にしたい部分をないがしろにせざるを得ない状況で。
一番集中したいところに集中できない現状がある。
それはどの現場でも同じやなって思う。
「人に関わるんだったら、まず職員を大事にしないといけない。」
って言ってはってたんやんか。
「職員の状態が心身ともに良い状態じゃないと、子供とか利用者さんに良い状態で関われない。」
って。
「だから私は職員の状態をチェックしたりケアすることを大事にしてるのよ。」
って言ってはって。
参加者みんなで、「はぁ〜!」って感動してた。笑
そういうところが良いサイクルで回ってるんやろうなっていうのが、文化としてもシステムとしてもできてるんやろうなっていうのが見えた。
それと、日本人は声を上げるってことに慣れてない。
何か不満があっても、改善するために声を上げようっていうところまで行き着かないというか。我慢したりね。
それで心身を病んだり辞めちゃったり、ちがう方向に行っちゃうっていうことをしがちなのかな。
デンマークは、「こうしたい」っていう自分の声が聞き届けられる経験を小さい時からすごく積んできてるんやろなって思う。
「人を大事にするべき」っていう気持ちで国と国民が同じ方向を向いてきたデンマークと、戦後、経済を豊かにしよって思ってお金を稼ぐことを大事にしてきた歴史がある日本とでは全然向いてる方向がちがう。
日本では、役職とかステータスを大事にしたり、お金を稼いでいる方が偉いとか、そういう部分にフォーカスがいってる。
ステータスは自分を取り巻く外側の部分やんか?
でも、日本はそのステータスで人の価値を判断されてしまう。
その周りの部分を否定されたら、自分自身を否定されたような感じになってしまう。
あなた自身は100%魅力的。だけど、仕事はもうちょっとこうした方が良いんじゃないっていうアプローチ。
だから、言われたことに対して、自分自身は傷つかない。自分を否定されたわけじゃないから。
周りのステータスを否定されただけだから、もうちょっと変えていこうみたいな話し合いができる文化があるかな。
日本の保育の課題
意識の統一が大切
感覚としてもわかるし、そういう働きかけを今まで仕事の中でしてきたし。
そういう風に自分も大事にされてきたから。
けど、日本だったら、 教育・福祉以外の分野の人たちがピンとこないんじゃないかなって思う。
自分も、「〇〇ができる」とか「良い大学に行った」とか、そういうことで評価されてきたから、私たち(教育者)が「子供たち自身を大事にしましょう」って言っても響かないんじゃないかなって思って。
だからみんなで意識を統一しないと、絶対どこかでズレが生じる。
それによって一番困るのは、子供や利用者さん。
そのギャップが、デンマークは日本に比べたら少ないと思う。
発信すること
そうなると、機能しない。
だから、日本の文化・風習にトランスフォームしないといけないんやけど、それをどう変えていったらいいのかが、まだわからない。
けど、デンマークにはこういう考え方があるっていうのを目の前の人に話すだけでも、その人が知らなかったことに気づいてくれるかもしれない。
興味を持ってくれて、さらにその人が友達に話してくれるかもしれない。
そうやって、「いいな」っていう考え方が広まって、その先で解決につながるかもしれない。
そこまですることが、今回の研修やデンマークに来た自分の責任というか。
自発的にそうしたいなって思った。
「デンマークにはこういう良いところがあるよ」っていうのを、バイキンを移すみたいに誰かに伝染させて、伝染した人がまた別の人にバイキンを移すっていう風に広まっていったら良いなっていう思いで講演されてるんやって。
バイキンの現在進行形って意味で「ヴァイキング」って言ってるらしい。
「親父ギャグ!!笑」って思ったけど笑、その考え方には賛成。
だから、自分も何かしらの形で発信したいなって思った。
保護者や地域の人に対して、自分たちはこういう想いで保育をしてますっていうのをアピールする部分が今まで保育所・幼稚園は弱かった。
それは実感としてもあったし、例えば公立保育所のHPなんて、(デザインが古かったりして)結構ヤバいからね。笑
でも、伝え方が難しい。
成果がわかりやすく表れるものじゃないから。
でも、そこを怠ってきたから、弱かったからあんまりわかってもらえない。
そこは保育分野全体の課題やと思う。
私たちが大事にしていることは、デンマークで大切にされている部分と共通してることがすごくあった。
だから、私たちの大事にしてきたことは間違ってなかったんだっていう気づきもあった。
今回の短期研修に参加してた別の業界で仕事をしてる人たちは、「デンマークってこんなことしてるんだ」って驚いていたけど、現場で働いていた私たちからしたら、「日本の保育所でもやってるよ!」ってなって。
だから、日本の中でギャップがあるって感じた。
専門性を持つ
ここまでの話を聞いて、その一因に、保育士さんの価値を低く見積もられ過ぎてるってことがあるのかなって思った。
慢性的な人手不足になってる。
で、その対策として、保育士の給料や待遇をあげるっていう政策じゃなくて、無資格でも働けるようにしましょうっていう方向になってきてる。
でもそれって、私たちの専門性を侮辱してると思う。
ただ子供と遊ぶだけならできる人も多いと思うよ。
でも、「保育は、根底にある考え方について教育を受けたプロフェッショナルじゃないとできないんだぞ」っていう風に、国は考えてない。
専門家が必要だっていう風に周りの人が理解してくれないと、やっぱり価値は見出せない。
専門家が専門家であるためには、専門家じゃない人がどう専門家を見てくれてるかにかかってる。
ノーフュンス短期研修で行った施設でも、「この施設で大事にしてること」っていう張り紙の中に、「専門性に対する責任がある」って書いてあるのをいっぱい見てん。
話してくれた先生たちも、「私たちは専門家だから、1つ1つすることに責任がある」って言ってた。
こっち(プロ)もそういう意識を持つ必要がある。
デンマークは専門性を守ることに対して意識が高いなって感じた。
日本との違いかな。
けど、デンマークでは、教育者(プロ)が、「いや、子供のことを考えたらこうするべきです」って、ちゃんとプロとしての意識を持ってアドバイスしたり、専門性を持っている。
日本だったら、親が「うちはこう」って言ったら、教育者は強く言えない。
プロとしての専門性が違うなって思ったかな。
今、伝えたいこと
だから、私、一個人では届かないところがある。
でも、何かアクションを起こしてみないと変わらへん。
日本人は人任せにしがちなところがある。
誰かがやってくれるみたいな。
だから、私もそこはデンマーク人寄りの考えにシフトして自分でアクションを起こしてみたら、何か変わるかなっていう風に変わってきた。
もっと自分の時間を大事にする、自分の感覚を大事にする。
保育だけじゃなくて、みんなにもっと自分を大事にしてほしい。
それが根源じゃないかな。
まとめ
今回は福森綾音さんへのインタビュー内容をお届けしました。
いかがでしたでしょうか?
日本の保育を良くしたいと願う福森さんの想いが、話のあちこちから溢れ出ていました。
「まずは自分ができることから」という気持ちで動こうとしている姿は素晴らしいし、大賛成。
今回の記事が、その一助となれたら嬉しいです。